ナイロンシャトル大会に思う

平成21年3月7日

日本中学校体育連盟バドミントン競技部長 小野 

 第1回大会ながら、「日体カップ」という冠がついて、格式の高い大会として始まったナイロン・シャトルの大会。主催は日本バドミントン協会である。BWFが世界各国にナイロン・シャトルコックを使った大会を開催するようにという指示が出ているとのことだが、真偽のほどは私には分らない。ただ、水鳥球をめぐる事情は確かに、複雑であり、ある意味「怪奇」でもある。世界で使われているシャトルコックのほとんどは中国が産地であり、ほんの僅かばかりが東欧産である。中国での急激な物価高、人件費の高騰、それに追い討ちを掛けるように「鳥インフルエンザの発生」である。昨年あたりは、日本国内のシャトルコック価格が値上がり、バドミントン愛好者にとっては家計の苦しい日々が続いた。が、ここへ来て、過去にない円高。シャトルコックが値下がりする。まさに「原油価格」と同様である。「原油価格」の上下動は投資によるものが大きな要因であったが、シャトルコックも同じではないかという気がしてくる。儲け主義のブローカーが暗躍しているとすれば、それこそ、バドミントン界の敵である。日本だけでなく、世界の敵でもある。

今大会はナイロン・シャトルの競技会である。このナイロン・シャトルに精通している方は、非常に少ないことをご存知であろうか。我国は中学校大会を中心に20年以上使用した経緯がある。ナイロン・シャトルを語ることが出来るのは、かつて中学生の指導に専心した指導者だけである。最初に断言しておくが、ナイロン・シャトルと水鳥球は全く異種の存在であり、これを同様に使用とするところに様々な弊害が起こった。中体連の競技会に取り入れた経緯も競技普及が大きな目的であり、バドミントンの競技普及という面では確かに大きな成果があったと思われる。しかしながら、選手育成や強化という面では他国に大きな差をつけられる一因となった。平成12年から「全国中学校バドミントン大会」でも水鳥球を導入したが、私は遅過ぎたと思う。ジュニア層の指導者からは、ナイロン・シャトルへの反対論は当初から出ていた。小学生、高校生が水鳥球を使う中、中学生というゴールデンエイジにまったく異種のシャトルを打たせることは愚行であると。また、メーカー主導型でナイロン・シャトルが普及した結果、メーカーによってシャトルそのものの飛び方が異なるという現象が起こり、時として、選手の力量よりも、そのナイロン・シャトルにどれだけ慣れているかが勝敗につながるという馬鹿げた結果を生んでしまった。当時、中学生大会で一番重要視されたのは、試合前にシャトルの銘柄を決めるトスであった。その後にサービス権を決めるトスをしていた。ナイロン・シャトルに慣れていない審判員は、銘柄が分からず、中学生に笑われるという光景もよく見受けられた。

さて、私はナイロン・シャトルと水鳥球の違いをここで科学的に論じるつもりはない。この2種が別物であることは、一目瞭然である。まず、大きさが異なる。ナイロン・シャトルの方が一回り小振りである。ナイロン素材にてまったく同じ大きさに出来ない不具合があるというのは素人でもわかる。また、実際に打ってみると気付くのであるが、ナイロン・シャトルの方が格段に落下速度が速い。これは、体育館の2階ギャラリーから自然落下をさせてみると簡単に判明する。当時、全日本総合に出場するような選手が中学生に負けていた原因はここにある。しかし、一番の問題点は中学生選手を指導する、相手とすべき選手がどんどん遠ざかっていたことである。中学生とのナイロン・シャトルの試合が過酷であり、選手のプライドを揺るがすような事態は避けたかったのである。中体連の大会が水鳥球に移行しての最大のメリットはシャトルの垣根がなくなったことで、中学生選手の指導者が格段に増えたことである。このことは、我国の選手育成に大きな前進になるはずであろう。 

今後、バドミントン競技の生命線ともいえるこの水鳥球がどうなるかは、今現在の世界の混迷に等しいかも知れない。先の見通しがまったく見えない。水鳥球がなくなり、世界選手権がナイロン・シャトルで行われるかも知れない危惧もなきにしもあらず、である。しかしながら、前述した通り、水鳥球で儲けようという悪徳ブローカーや業者の存在もある。BWFがナイロン・シャトル大会を推進するのではなく、水鳥球の安定供給への施策に大いに力を入れるべきであろう。特に、我国には、バドミントン用具では世界をリードするメーカーもあり、官民一体となって日本が国際的な動きをする時かと思う。また、国内では、今大会のように幅広い層の選手が参加できる競技会にしたことは大きな意義がある。過去に中学生という単一枠に、押し付けのように使用させた失敗は繰り返してはならない。


水鳥球(左)とナイロンシャトル(右)
水鳥球とナイロンシャトルの大きさの比較
自然落下によるシャトルの差 (ナイロンシャトルが右側)
自然落下によるシャトルの差(ナイロンシャトルの方が速い)
中学生大会で使用されていた3メーカーのナイロンシャトル

形状が異なり、飛び方や打球感が異なる
  
シャトルのスカート部に大きな特徴がある。
 



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